西安 碑林
唐末から五代十国にかけての戦乱に見舞われて、『石台孝経』『開成石経』および顔真卿や柳公権などの能書家の石碑が市井に散在してしまいました。誰でも自由に文献を読めるように、北宋の1087年、漕運使呂大忠らがこれらの石碑を集めたのが始まりです。現在の西安碑林は『石台孝経』を納めた東屋、七つの書道展示室、石刻芸術館から構成され、漢代から清代までの3000余りの石碑を保存しています。さまざまな石碑が林のように立っているので碑林と呼ばれます。
元々、ここは孔子廟でしたから、正門が東向きになっているのみならず、入口の近くに鳥居型の門がそびえています。この門は「牌坊」と言い、功績のある人の徳を讃えるために建立されたものです。孔子廟の中には必ずこういう門があります。
次に、唐の玄宗皇帝直筆の『石台孝経』を納める東屋が目に入ります。玄宗は世の中の人々に自分は「孝」を以て天下を治めようという意志を表すために、親孝行を説く孔子の教えである『孝経』について序文と注釈を書きました。字体は彼の得意とする隷書です。
引き続き、第一展示室は論語をはじめとする13部の儒教の経典を保存するものです。唐の開成年間、12部の経典が彫られ、『開成石経』と名づけられます。清代に『孟子』が付け加えられ、全部で13部になるから、「十三経」とも呼ばれます。これは昔の知識人の必読の書でした。
第二展示室はほとんど唐代の有名な石碑です。褚遂良、欧陽詢、顔真卿、柳公権など大書家による石碑や、唐代にローマからキリスト教が伝わってきたことを示す『大秦景教流行中国碑』などがみものです。
第三展示室は漢字が象形文字から現在の姿に変遷する様子を展示しています。後漢の『曹全碑』が当時盛んな字体であった隷書で書かれたもので、時代の余香を今日に伝えます。なお、張旭と懐素がそれぞれの書風で表現する『千字文』も見事です。
第四展示室は唐代以降の名人の書と絵を展示しながら、拓本の実演販売も行っています。
最後に、石刻芸術館は陵墓関係と宗教関係の彫刻を見せています。後漢の生活を表す画像石、唐の太宗皇帝が天下を統一した際に活躍した6頭の軍馬の姿を石に浮彫する『昭陵六駿』、唐王朝と外国との友好関係を物語る犀の彫刻、元伽児の手による豊満な老子像などが興味深い。